第一項 電気と安全

第一項 電気と安全

電子工作創作表現(2019/04/19)

第一項では、実際に電子部品に触る前に
電気と安全についての基本的な概念を確認していきます。

電気の基礎知識

「電気の正確な知識」ではなく「便利な概念」を習得する

まず電気について。小中校と理科や物理で、さらに生活の中でなんとなく概念は分かってると思いますが、ここではもう少しだけ掘り下げて「物理的に正しい電気の正確な知識」ではなく「電気を道具として扱う上で便利な概念や考え方」という視点で、少し噛み砕いた言い方でポイントを抑えながら電気というものについて説明して行こうと思います。

電気とは?

電気力・電気伝導など、種々の電気現象のもととなるもの。多く、電荷・電流または電気エネルギーをいう。(大辞林 第三版)

→電気というものがあるわけではなく、"電子"が流れている現象周辺の事を指す

電気とは何ぞやと辞書を引いてみると、このように書いてあります。何でこんな書き方かというと、電気という物体そのものは存在していないわけで、実際は電子と呼ばれる素粒子の一種が流れる事によって起きる現象やその状態の事を広く「電気」と呼んでいるわけです。

しかし電子工作で電気を使う立場としては、あまりここの正確さは重要ではないので、軽く触れるだけにしておきます。

電気の使い方

力としての電気と、情報としての電気がある

電気を「使い方」という視点で見た時に、力としての電気と、情報としての電気というふうに大きく2つに分けることができます。

力としての電気

電気のエネルギーを他の有用なエネルギーに変換する

→光らせる・温める・動かすetc...

→規模が大きくなると、強い電気が必要

力としての電気というのは、電気エネルギーを変換して光らせたり、温めたり、動かしたり何か他のエネルギーにするという使い方です。
例:電灯・ヒーターの電熱線・モーター

情報としての電気

流す電気のパターンに意味をもたせるもの

→基本的には弱い電気を流す

情報としての電気というのは、電子部品同士や機械同士の間で、情報をやりとりするための電気です。電気信号とも言います。
身近な例ではオーディオケーブルや映像ケーブルに流れる電気がそれにあたります。
ここで使われる電気は、基本的に弱い電気を使っている事が多いです。

電気の強さ

電気の強さ電力(Watt)=電圧(Volt) X 電流(Ampere)

強い電気、弱い電気という言葉が出てきましたが、電気の強さは電力とも言い、数字で表されます。
単位はワットで、電圧と電流をかけたものが電力になります。
この電圧・電流というのはこれからよく使うものなので、言葉と違いをよく覚えておいてください。

電圧

電気を流そうとする強さ。単位はボルト

3.3/5/9/12/24Vなど、良く使われる電源電圧は決まっている

電圧というのは電気を流そうとする強さのことで、何か回路を作る時には、何ボルトの電圧を流すか決める必要があります。大体よく使われる電圧はいくつかの数字に決まっていて、USB機器に流れている電圧は5Vで動くのでArduinoも5Vで動作する設計になっています。

電流

回路に流れる電子の量。

→ざっくりと言うと「回路が消費する電気の量」

電流は、回路に流れる電子の量を表します。これだけだとナンノコッチャですが、電子回路を作るシーンにおいては、まず電圧の方が決まっているので、この電流というのが「その回路が消費する電気の量」と思っておくと大まかな感覚としては間違いないです。

例えば日本の家庭用電源は契約によって20Aとか30Aとかだったりしますが、電圧は全国で100V統一です。つまり20Aなら20Ax100V=2000Wまで使えるということになるので、同時に使う家電の総量がここに収まるよう計算すれば、ブレーカーによる停電を防ぐことができます。日常使う家電なんかは数十ワットで収まりますが、電子レンジなんかは1台で1000w使ったりするので、レンジでブレーカーが落ちる理由がよく分かると思います。

まとめ

  • 電気の使い方には「力として」と「情報として」の使い方がある
  • 電力(電気の強さW) = 電圧(電気を流す力V) x 電流(消費する電気A)

安全の基礎知識

続いては安全についてです。電子工作も、理工学系ではなくこういった芸術系の大学で教えるくらい間口が広く扱いやすい存在になったわけですが、その分安全面には一層注意を払わなくてはなと考えています。

作品制作と発表における危険

  • 作る時の危険
  • 見せる時の危険
作る時の危険と、見せる時の危険についてそれぞれ気をつける必要があります。

作る時の危険

  • 道具を正しく使う(1メートルは一命取る)
  • 電子工作で起こる危険は後述
作る時に気をつける事の基本は「正しく道具を使う」と同義です。
特に慣れている道具ほど気をつけなくてはいけません。「1メートルは一命取る」という安全標語があるように、大丈夫そうに見えてしまう状況が一番危険です。

見せる時の危険

  • 日々使う電化製品は、ものすごく厳しい安全基準をクリアしている
  • 自分が大丈夫でも、年齢・性別・文化などで安全性は変わる
私達が日常使っている電気製品には数多くの安全基準が課されています。普段何の苦労もなく使えているので、つい自分で作るデバイスを他の人が使ったり体験するようなシーンについては、そういった危険性を見落としがちです。

また、自分が体験して安全だったとしても、他の人にとっては危険ということもあります。強くて早い光の点滅がだめな人(子供は特にNG)や、暗い空間で心臓の鼓動のような音を聞くのが苦手な人もいます。

最近では2眼式のVRゴーグルを7~10歳以下の子供に体験させると眼球や視野の発達に影響を及ぼすのではないかという事が議論されています。(Oculusは13歳、Nintendo labo VRは7歳からなど)目新しいデバイスや、まだ多くの人が体験していないような装置にはそういった未知の危険性が潜んでいることもありますので、しっかりとリサーチをするなどより注意が必要です。

電子工作で起こりうる危険

  • 発熱
  • 発火
  • 感電
ここまで一般的な展示やパフォーマンスにおける安全性についてでしたが、電子工作で起こりうる危険について少し掘り下げてみようと思います。

発熱

  • 全ての部品は発熱する
  • 熱が溜まると、部品の溶融や発火につながる
  • ヒートシンクや空冷で「冷やす」
まず発熱ですが、ほんのり温かくなる程度や、触っただけでは分からないレベルも含めると基本的にほぼ全ての電子部品は大なり小なり発熱をしています。
導体には流れてくる電流を抑える抵抗という性質があるのですが、この抵抗によって熱が生じます。(摩擦熱のようなイメージ)

発生した熱は空気に触れたりすることで放熱されますが、放熱より発熱する量の方が多い時、温度が上がり続けて素子が壊れたり、周りのものを溶かしたり焦がしたり、最悪の場合燃やしてしまいます。

追々詳しく説明しますが、基本はファンやヒートシンクで「冷やす」ということと、そもそも発熱するのがおかしい場合は回路や使っている部品を検証し直すなどの対策が必要になります。

発火

  • 発熱及び放電+可燃性物質
  • 燃えやすい物は、とにかく離す
続いて発火です。これは発熱で可燃性の高い物質が熱せられる事で火が出る、というのが一番わかりやすいパターンです。電気が流れているもののそばに燃えやすい物をとにかく置かないというのが大原則です。

東京デザインウィークで投光器から出火して5歳の男の子が亡くなるという痛ましい事故がありました。あれも照明自体は通常使用で出る発熱量ですが、そこに燃えやすいおがくず状の木材が密着されていた事が原因の一つです。また、可燃性のあるガスうや液体については熱が出ていなくとも静電気やショートによる放電で発火することもありますうので、熱源が確認できていなくとも、電気回路のそばにはとにかく可燃性物質を置かない、やむをえない場合は相応の安全策を取り、舞台や展示会場の責任者に通達するなど対策を徹底するようにしてください。

感電

  • 電流量によって感じ方が変わる
  • 電源を入れたまま回路を付け替えたりしない
  • ケーブルやケースなどは必ず「絶縁」する
  • 作業によっては「電気工事士」の資格が必要なこともあるので注意
最後は感電です。これは可能性としては低い部類ですが、注意するに越したことはありません。要するに人体に電気が流れ込むことで神経が刺激されるわけですが、人間の筋肉も微弱な電気信号によって動いているので、強い電流が流れた場合心停止などもおきます。

プラスとマイナスに同時に触れれば回路が出来上がるので当然電気が流れますが、プラスだけを触っていても、地面や金属などに触れて電気の逃げ道があった場合は電気が流れる可能性は十分あります。

対策としては、回路をつないだり外したりする時は必ず電源を切るようにしてください。思うように動かなくて焦っている時などついやってしまいがちですが、危険です。

この講義では扱う予定は無いですが、100V電源など配線する時は特に気をつけてください。場合によっては「電気工事士」の資格が必要な事があります。

まとめ

  • 作る時の危険と見せる時の危険、それぞれ検証を重ねて準備を進める
  • 電子工作では特に「発熱・発火・感電」に気をつける。

安全についてさらに詳しく

舞台技術の共通基礎

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